3つのアウフヘーヴェン(社会形成のメカニズム)

初めに、『精神現象学』で知られるヘーゲルの唱えた「アウフヘーヴェン(=止揚)」とは、始めにカルチュア(=既成の文化&枠組み&価値観)があって、そこからカウンターカルチュアが生じて、その両者をぶつけて合体・融合させることで新しい文化&枠組み&価値観を生じさせるということでした。

※また、「正(=前からの存在)」+「反(=後からの存在)」=「合(=新しい存在)」という図式のことでもある。

ここで、アウフヘーヴェンには3つの種類があります。それをここから説明します。

一つ目について、正と反は存在的・概念的に対立しますが、正と反が相互に矛盾しないように上手い具合に両者を擦り合わせた上で、両者のメリットのみを合併させて両者の「良いとこどり」をしたのが合です。また、これが本来のアウヘーヴェン(=いわば「実のアウフヘーヴェン」)です。

二つ目について、正と反が相互に矛盾する部分を調整・調停(=両者のメリットとデメリットを相殺)をしたのも合です。また、これもアウフヘーヴェン(=いわば「中のアウフヘーヴェン」)です。

三つ目について、正と反の両者のデメリットのみを合併させて両者の「悪いとこどり」をしたのも合です。また、これもアウフヘーヴェン(=いわば「虚のアウフヘーヴェン」)です。

このことを例を用いて説明します。

例えば、モータリゼイション以降、歩行者と自動車にはそれぞれの通る道を用意されていて、それぞれに専用の路面の上を移動することが「実のアウフヘーヴェン」)です。

次いで、一つの路面上に歩行者信号を設けることで、歩行者と自動車が時間的に交互に道を譲り合うことが「中のアウフヘーヴェン」です。

そして、仕切り(=ガード)も信号もない一つの路面上に、歩行者と自動車が一緒くたになって、歩行者と自動車が混在する恰好で路面を共用するのが「虚のアウフヘーヴェン」です。

ところで、「実のアウフヘーヴェン」は社会全体を上昇させて豊かさをもたらしますが、「中のアウフヘーヴェン」は社会全体を停滞させ、「虚のアウフヘーヴェン」は社会全体を下降させて貧しさをもたらしてしまいます。

終わりに、アウフヘーヴェンには三つの種類があり、それぞれに意味や働きが異なるのでした。